やさしいかたな
目次
- 1 はじめに
- 2 刀の豆知識
- 3 刀の発見から登録まで
- 4 発見届けが済んだら、いよいよ登録証の交付
- 5 登録に関するQ&A
- 5.1 【Q 刀の登録証って何ですか?】
- 5.2 【Q 登録の対象となる刀とは、どんなものですか?】
- 5.3 【Q 登録の対象とならない刀剣とは、どんなものですか?】
- 5.4 【Q 真っ赤に錆びた状態の刀でも、登録証は交付されるのですか?】
- 5.5 【Q 刀を購入したり、譲り受けたりする場合には、どのような手続きが必要ですか?】
- 5.6 【Q 新たに刀を入手したとき、警察に届け出たり、許可を受けたりする必要はないのでしょうか?】
- 5.7 【Q 刀を持ち運びする場合などに、登録証はどのようにしたらいいでしょうか?】
- 5.8 【Q 登録証に記載されている寸法と現物とに少し違いがあるのですが、どうしたらいいでしょうか?】
- 5.9 【Q 登録証を紛失してしまったのですが、どうしたらいいでしょうか?】
- 5.10 【Q 海外へ刀を持っていくことはできますか? どうしたらいいですか?】
- 5.11 【Q 海外から刀を持ち込むにはどうしたらいいでしょうか?】
- 6 刀の真偽・価格評価について
- 7 刀の売買・譲渡について
はじめに
日本古来の刀は美術品として価値の高いものが多く、今日では国民の文化的遺産として大切に保存されていますが、その所持等が「銃砲刀剣類所持等取締法」(略称「銃刀法」)によって銃砲と刀剣が一括して規制されているため、言葉の印象から、持つ人の資格が問われる猟銃等の所持許可や、一般人が持つことそのものが禁止されているけん銃等の武器と混同されているきらいがあります。刀は登録審査によって美術的価値が確認されれば、誰でもこれを所持することができるのです。
もちろん登録を受けた刀であっても、所有者変更の際の届け出の義務や、所持に関しても変装刀剣類の禁止や、むやみな携帯等についての規制があり、守らなければならないことはたくさんあります。
そこでこの『やさしいかたな』では、難しいと思われている刀に関する法律問題を中心に、質問・回答を交え、初心者にもわかりやすく解説し、より理解を深めていただこうとするものです。
紙数の関係ですべてを網羅するには至っておりませんが、ここに取り上げることは、刀を持とうという人にとっては最低限の常識とも言えることばかりです。
わが国の長い歴史の中で大切に伝えられてきた刀を正しく後世に伝えることは、現代に生きるわれわれの使命です。そのためにも、正しい知識を身につけることをお勧めします。
刀の豆知識
一口に「刀」あるいは「日本刀」と言っても、作られた時代や用途などの違いから、さまざまな違いが見られます。日本刀は太刀・刀・脇指・短刀に大別することができます。
まず太刀と呼ばれるものは、刃長が65~80㎝ぐらいで、刃を下にして腰に吊す(これを「佩く」と言う)様式です。平安時代の中ごろから室町時代の初めにかけて多く作られました。刃長60㎝以上で、太刀とは逆に刃を上にして差すものが刀です。侍は大小を腰に差しますが、長い方が刀で、短いのが脇指です。刀は太刀に代わって、室町時代から江戸時代末まで使われました。脇指は刃長30㎝以上、60㎝未満のものを言います。この中でも比較的寸法の長いのを長脇指、一尺二、三のものを小脇指と呼ぶことがあります。短刀は30㎝未満のものを言います。俗に「あいくち」と呼ばれるものは短刀の種類ではなく、主に短刀に付ける外装(合口拵)の形態を指します。このほか、刀剣の種類には剣・槍・薙刀などもありますので、覚えておきましょう。
日本刀は世界に誇る美術品です。姿形の優美さや刃文・地鉄の美しさは、比類のないものです。ただし、これを手に取って鑑賞したり、手入れを行ったりする際には、これにふさわしいルールとマナーが求められます。 刀身の部分には絶対に素手で触れないよう注意しましょう。万一触ったりしますと、思わぬ怪我をしたり、刀に錆を付けてしまう原因になります。また、刀は何と言っても、湿気と防虫剤を嫌います。もう一度刀の保管場所を確認し、適切な保存を心がけましょう。
刀の発見から登録まで
わが国には平成23年度末までに、延べ2,495,234点の刀剣類が登録されていると言われています。新規に登録される刀剣類の数は、文化庁が把握しているところによると、昭和53年度の36,759点を境に年々減少傾向にありますが、それでも年間一万点を上回っています。刀の登録は、決して難しいものではありません。まずはこの機会に、手元にある刀に登録証が付いているかどうか、確認しましょう。もし家の中から登録証の付いていない刀が出てきたら、迷わず所轄の警察署に届け出をしましょう。善意の届け出者に対して警察署の窓口は決して怖いものではありません。発見届までの経緯を正直に申告すれば、親切に対応してくれます。郷里の実家などで刀が発見された場合、年老いた両親に代わって自分の住んでいる東京などで登録をしようとする人がいますが、これはできません。面倒でも、必ず刀が出てきたところの警察署で行いましょう。この届け出をするのは、刀が出てきた家の世帯主が行うのが普通ですが、事情によって家族の方でもかまいません。ただし、第三者が代行することはできませんので、念のため。発見届けをする際に必要なものは、まず発見された刀と印鑑です。発見したいきさつを正直に説明すれば、警察署で発見届の書類を作ってくれますので、あらかじめ発見した日時や場所を確認しておくと良いでしょう。
あっ!こんなところに刀があった
刀が発見されるケースはいろいろありますが、特に多いのは、
① 建物を壊したときに屋根裏などから出てきた
② 引っ越しなどで物置を整理していたら、他の骨董品に混じって出てきた
③ 祖父の遺品を整理していたら、押し入れから出てきた
④ 前から刀のあることは聞いていたが、あらためて調べてみたら登録証が付いていなかったなどです。 今ごろになって発見届けをすると、不法所持で罰せられるのではないか、あるいは警察署で刀を没収されるのではないかなどとお悩みの方がいるかもしれませんが、決してそのようなことはありません。善意によって届け出られた刀が、理由もなく没収されることはありません。 しかし、虚偽の申告をすると処罰の対象となりますので、特に注意しましょう。
発見届けが済んだら、いよいよ登録証の交付
美術品として価値のある刀剣類の登録は、都道府県の教育委員会が行うことになっています。発見届を行った警察署では、登録の審査日や会場などを教えてくれたり、案内書を用意してくれたりするので、聞いてみましょう。
都道府県によっては、審査日が三カ月に一度あるいは一カ月に一度というようにまちまちです。東京都では、毎月第二火曜日の午前十時から午後三時まで、新宿区の都庁第二庁舎十階で審査を行っています。さあ、いよいよ登録審査です。登録審査の際に必要なものは、発見された刀と、所轄の警察署で申請したときの発見届出済証、登録料(平成24年6月現在6,300円)です。登録審査日に本人がどうしても行けない場合、第三者に手続きを依頼することができますが、それには委任状が必要となります。詳しくは都道府県教育委員会に確認をし、不備のないように心がけましょう。発見届けまでの管轄は警察ですが、登録に関することや登録証の発行は都道府県の教育委員会が行っています。発見された刀に登録証が付くかどうかの具体的な審査は、登録審査委員が行います。
ほとんどの刀には銃砲刀剣類登録証が交付されますが、一部の刀については登録証が交付されないことがあります。その場合でも、すぐに没収になるということはありませんのでご安心ください。登録証が交付されない刀の一例として、戦前・戦中に製作された無鍛錬の軍刀があります。ここで注意したいことは、軍刀拵に入っているからといって、中の刀も粗製の軍刀だと早合点しないことです。外装は軍刀であっても、発見届を済ませて登録会場に刀を持っていくことです。判断をするのは、登録審査委員です。軍刀拵に入ったもので、思いがけない名刀であることもあるのです。さあ、これで登録証が交付されました。
登録に関するQ&A
【Q 刀の登録証って何ですか?】
A 一般に登録証と呼んでいますが、正式な名称は「銃砲刀剣類登録証」です。この登録証はあくまで、「美術品若しくは骨とう品として価値のある火なわ銃等の古式銃砲」または「美術品として価値のある刀剣類」に対して交付されるもので、日本国政府が認めた刀や火縄銃の戸籍のようなものです。登録証の交付された刀は、美術品として価値のあるものと認められたのですから、大切に保存しましょう。(持つ人の資格が問われる猟銃などの「所持の許可」とは異なるものです)
【Q 登録の対象となる刀とは、どんなものですか?】
A 武用または観賞用として、伝統的な製作方法によって鍛錬し、焼入れを施したものを「日本刀」と言い、刀剣類の登録は日本刀を対象としています。太刀・刀・脇指・短刀のほか、剣・槍・薙刀・鉾などもこれに含まれます。
【Q 登録の対象とならない刀剣とは、どんなものですか?】
A 具体的に例示すると、次のような刀剣類です。
① 全体的にはなはだしい錆、傷、疲れなどのあるもの、または製作が著しく劣っているもの
② 昭和刀、満鉄刀、造兵刀などの名称で呼ばれる素延べ刀、半鍛錬刀、特殊鋼刀などであって、外見は日本刀に類似する刀剣であっても、日本刀としての製作工程を経ていないもの
③ 外国製刀剣類
【Q 真っ赤に錆びた状態の刀でも、登録証は交付されるのですか?】
A もちろん、登録証は交付されます。なお、刀の発見届けをするときは、発見された状態のままで届け出をしなくてはなりません。従って、発見届けが終了するまでは、どんなに錆びていても研磨や修理を施すことはできません。登録審査の際、美術品として価値があるかどうか正確な判断ができない場合、「窓開け」と言って一部分を研磨することがありますが、その決定は教育委員会や登録審査委員の指示に従うと良いでしょう。
【Q 刀を購入したり、譲り受けたりする場合には、どのような手続きが必要ですか?】
A 登録証の付いている刀は、登録を受けた人はもちろん、それを購入または譲り受けることにより、誰でも所有することができます。その際、不動産や自動車のような所有権移転などの手続きは不要ですが、その刀が登録されている都道府県教育委員会宛に「銃砲刀剣類等所有者変更届」を提出しなければなりません。所定の用紙に登録証の記載事項や、元の所有者の住所・氏名、自分の住所・氏名、日付などを記入して押印し、郵送します。所有者変更届出書は、当組合事務局や組合加盟の刀剣店にて差し上げています。なお、都道府県によって手続きに若干の差異がありますので、詳しくは登録証を交付した教育委員会にお問い合わせください。
【Q 新たに刀を入手したとき、警察に届け出たり、許可を受けたりする必要はないのでしょうか?】
A 登録証の交付されている刀は、都道府県教育委員会の委嘱を受けた登録審査委員が、美術品として価値があると認めたものですから、購入や譲り受けの際に警察に届け出たり、許可を受けたりする必要はありません。売却や譲渡の場合も同様です。
【Q 刀を持ち運びする場合などに、登録証はどのようにしたらいいでしょうか?】
A 刀剣類を携帯し、または運搬する者は、その刀剣類に係る登録証を常に携帯していなければなりません。刀と登録証を別々に保管していると、登録証の携帯をつい忘れたり、紛失してしまうこともあり得ますので、普段から一緒に保管しておくことをお勧めします。
【Q 登録証に記載されている寸法と現物とに少し違いがあるのですが、どうしたらいいでしょうか?】
A 登録証に寸法の測り違いや銘文の読み違い、あるいは記入漏れが発見されることがあります。間違いに気づいたときは、登録証を発行した都道府県教育委員会に速やかに連絡し、その指示に従うことをお勧めします。
【Q 登録証を紛失してしまったのですが、どうしたらいいでしょうか?】
A 登録証は刀とともに大切に保管することはもちろんですが、そのコピーを別途保管しておくことをお勧めします。万一紛失した場合は、速やかに発行元の都道府県教育委員会に届け出て、登録証の再交付を受けてください。登録番号などが確認できるものに限り、再交付が可能です。
【Q 海外へ刀を持っていくことはできますか? どうしたらいいですか?】
A 国際化がますます進む中、さまざまな理由で刀を海外に持ち出す機会も増えています。飛行機に搭載したり、郵便で送付したりできるのだろうかと心配の向きもあろうと思いますが、難しいことではありません。ただし、事前に手続きが必要です。文化庁に「古美術品輸出鑑査証明」の申請をし、その刀が国宝・重要文化財の指定または重要美術品等認定物件でないことを証明してもらわなくてはなりません。刀の写真などを添えて申請書を提出すると、約二週間後に証明書が交付されます。遠方の方は、郵送でも受け付けてもらえます。持ち出そうとする刀とこの証明書を税関に提出すると、持ち出しが可能になります。なお、国によっては刀の持ち込みや輸出ができないことがありますので、ご注意ください。
〒100-8959 東京都千代田区霞が関3-2-2 文化庁文化財部美術学芸課
TEL 03-5253-4111内線2887
【Q 海外から刀を持ち込むにはどうしたらいいでしょうか?】
A 海外から刀を持ち込む場合は、到着地の空港警察に申告し、「持込許可証」を発行してもらいます。これが発見届書と同様の役目を果たします。後に居住地の教育委員会で審査を受け、登録証を交付してもらう手順は、国内で刀が発見された場合と同じです。ただし、美術品として価値ある日本刀以外のものを国内に持ち込むことはできません。
刀の真偽・価格評価について
刀剣の真偽
刀剣には製作者の署名が残されているものと、製作時より署名がない、あるいは後世短くされたために銘がなくなってしまったものとの二つに大別され、銘のあるものは在銘、ないものは無銘と呼ばれています。在銘の刀の真偽については、今日の進歩した鑑定学と豊富な資料に基づき、公益財団法人日本美術刀剣保存協会などいくつかの機関が鑑定を実施していますので、その判定が真偽のよりどころとなっています。また無銘のものには、安土桃山時代以降、本阿弥家などの鑑定家が作者を推考して折紙を発行したり、作者や流派を特定して中心(茎とも)に金象嵌銘・朱銘・金粉銘などを施した例が見られます。これらの中には、尊重すべきものとそうでないと思われるものが混在しています。在銘の刀と同様、信用のおける鑑定機関の審査に出してみることをお勧めします。
刀剣の価格評価
一般に「骨董品には価格があってないようなものだ」とよく言われます。そのような骨董・古美術品の中でも、刀剣の価格は比較的安定していると言えます。その理由は、前段で触れたように、権威ある機関の発行する指定書や鑑定書の格付けが、真偽のほかに価格判定の重要な目安となっているからです。真偽と美術的価値の程度、そしてそれらに比例する経済的価値が、添付されている鑑定書などによって大きく左右されるのが数十年来の刀剣価格評価の特徴であり、それによって刀剣の流通価格が成り立っているのが実情です。従って、このような価格評価の目安ともなる審査制度が行われていない他の骨董・古美術品に比べ、刀剣の価値判断は比較的容易であると言えるのです。
刀の売買・譲渡について
刀を買いたい
刀は登録証が付いているものであれば、誰でも気軽に買い求めることができます。購入したからといって警察に届ける必要もなく、金庫などでの保管が義務づけられることもありません。晴れてご自身の所有となった刀を手に取って鑑賞すると、博物館や美術館でガラス越しに見るのとは全く違った印象がします。どうかじっくりご堪能ください。ただし、刀を買い求めたり、譲り受けたりした場合、一つだけやることがあります。入手した日から20日以内に、所有者変更届をする必要があります。決して難しい手続きではありません。もしこの届けを怠ったりすると、処罰の対象となりますので、必ず行いましょう。なお、刀剣の売買では個人間の取引はなるべく避け、信用ある専門の刀剣商から購入することをお勧めします。なぜかと言いますと、刀剣は同じ作者の作品でも、出来の良しあしや保存状態などの理由で価格に相当の開きがあります。根拠の不確かな価格で取引した後、トラブルになることがままあるので、注意しましょう。
刀を売りたい
銃砲刀剣類登録証の交付された刀なら、自由に売却・譲渡・相続することができます。登録証が付いていない、いわゆる無登録の刀は売却や譲渡、相続ができません。この状態の刀を取引すると、銃刀法違反で処罰の対象となりますので、登録証が付いていることを必ず確認しましょう。前述のように、刀は一振一振、状態によって価格が異なります。売却する際は、独断や素人同士の判断に頼るのでなく、組合加盟の刀剣商に相談されることをお勧めします。
(やさしいかたな 全国刀剣商業協同組合より転載・抜粋)